2013/04/22

舟を出す

 ある一定の範囲の人たちにしか通じない言葉がある。母国語然り、方言然り、専門用語然り、恋人同士然り。
 そんな共通言語を多く持っていればいるほど、親密度が高いのかもしれない。久しぶりに連絡を取った大学のゼミの同期と「駅南で舟を出したいね」という言葉を交わしながら、そう思った。ある時期、たしかに私たちは「舟を出す」ことを楽しみにしていたのだった、と懐かしく思い出す。
 そして卒業して15年経った今でも、お互いその言葉を普通に使い、何の不安もなく相手に通じることがうれしい。それは、私たちの関係がほとんど変わっていない、と無謀にも信じられることとほぼイコールだからだ。

2013/04/19

ささやかな復讐

「君の幸せが死んだ人たちにとっての幸せだよ。」
 昇一は言った。
「そう思う人のほうが少ないと思う、人ってもっとどんよりしたものよ。どろどろして、自分でもわからないもやもやを幸せな人にぶつけるもの。」
「それじゃあ、言い直すよ。」
昇一は言った。
「君の幸せだけが、君に起きたいろんなことに対する復讐なんだ。」
(よしもとばなな『彼女について』文藝春秋、177〜178ページより)
 嫌なこともつらいこともたくさんあって、どこにいても馴染めなくて浮いている、腹を割って話せる友達もいなくて孤独だ、と思っていた小さいときの私に、「大丈夫、あと20年くらいしたら本当に楽しい毎日を過ごせているよ」と言ってあげたい。
 人はみな、幸せになるために生まれてくるのだ。私は今、ささやかな復讐をしながら生きている。

2013/04/18

9年目のラブレター

あれから丸8年経ちましたね。
私はいくつか仕事を変わり、とうとう3月には独立して、
自分でも予想外の人生を歩むことになりました。
小さいことをくよくよ気にして、
なんでも悪いほうに考えがちで、
しっかりしているように見られるけれど実はすごく抜けている私が、
それでもこうやって楽しく暮らせているのは、
いつも受け止めてくれるあなたのおかげです。
本当にありがとう。
9年目も、どうぞよろしく。

3月20日お客様を惹き付けるキャッチコピー&肩書きをつくるワークショップ(東京)

3月20日、東京・自由が丘で、河田真誠さんと
「お客様を惹き付けるキャッチコピー&肩書きをつくるワークショップ」を
開催しました。
これまで開催してきた「自分の魅力のつくり方、伝え方」から1歩踏み出し、
実際にキャッチコピーや肩書きを作成しようという内容です。
肩書きやキャッチコピーを考えるときに陥りがちなのは、
自分ひとりでやろうとするために判断基準がわからなくなること。
今回は他の人とシェアすることで意見をもらい、
気づきや学びを反映させていくという形を取りました。
一部、参加者さんからの感想をご紹介します。
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キャッチコピーや肩書きを考える、決める方法としてたくさん書きだしたほうがいい、
ということはわかっているけど、ひとりでは煮つまってできなかった。
質問に答えながら、書き出す作業をみんなでやる場があって、
また、他の人の答えを聞くことで、新たなアイディアが浮かび、良かったです。
長時間という感覚がなかった。
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自分の中でモヤモヤしていたいろんなことが今日のこのセミナーでつながりました。
2度目の受講でしたがわかりやすいていねいなセミナーに引きつけられます。
これからも楽しみにしていますので素敵なセミナーをどんどん打ち出してください。
自分を見つめなおす時間を作って今回の復習もかねたいと思います。
河田さん工藤さんありがとうございました。
出会いに感謝。
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「キャッチコピー」「肩書き」を考える上で質問を切り口にして
多くのことを考える、深める本当に良いきっかけになりました。
今までも何度か考えたことがあるテーマでしたが、
やはり自分一人だと思考の限界もありましたが、
グループでやることや真誠さん、春奈さんの経験や知識からの気付きもあり、
自分なりの「キャッチコピー」「肩書き」にたどりつけたのが良かったです。
楽しく学べた1日でした。
真誠さん、春奈さん、今日をきっかけにかかわれたことに感謝します。
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いちばんの成果は、自分のミッションを再確認できたことです。
キャッチコピー・肩書きはわかりやすく、
魅力を引き出せるものであることが重要であるという点は、十分理解できたと思います。
しかし、同時に気の利いたキャッチコピー・肩書きを作ることに縛られて
肝心の目的を見失わないようにしたいとも感じて受講していました。
幸いにも、あくまでも目的を踏まえた上での質問スタイルでの進行であったので
目的を見失うことなく受講することができました。
本日の出会いに感謝しつつ、自分のミッションの達成に進んでいきたいと思います。
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改めて「キャッチコピーって大事だけど難しい」って思いました。
いつもキャッチコピーで悩んでしまうので、そのへんについてのアドバイス、指針が得られたのが良かった。
とにかく、今目の前の仕事、ビジネスを一生懸命やろうと思った。
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質問されたことで、自分の中にあった隠れた思いに気付けた。
キャッチコピーや肩書きを改めて考える良い機会をいただきありがとうございました。
自分自身にしっくりくるものが見えました。
これを磨いていきたいと考えます。
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ご参加いただきまして、ありがとうございました!
また開催の際にはお知らせいたします。

3月9日自分の魅力のつくり方、伝え方(大阪)

2013年3月9日に、大阪で河田真誠さんと
「自分の魅力のつくり方、伝え方」というセミナーを開催しました。
2月11日に東京で開催したのと同じ内容です。
この日もとても熱心な方にお集まりいただき、
和気あいあいとした空気の中、
たくさんのワークに一所懸命取り組んでいただきました。
参加者さんからの感想を一部ご紹介します。
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自己開示や、エピソード、お客さんのことばを集める。
たくさんの文章を読む。説明しない。
先に進むにはバランスをくずすということがすごくよかった。
伝えると伝わるのちがいがわかったので意識してやろうと思います。
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午前中だけでしたが、ワーク→説明→作業→シェアの流れがとてもわかりやすく、
きちんと腹におとしこめていく感覚が持てました。
例えばなしや、最近の事例などもふんだんで、お2人が常日頃から、いろいろなことを
意識して過ごしていることがよくわかり、同じ講師として学ぶところが多かったです。
しんせいのテンションの高さと、はるなちゃんのゆったり感が絶妙でした。
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自分の仕事や、らしさ、魅力を客観的に観る機会になりました。
楽しかったー。
家で復習して、実生活で活かしていきたいなー。
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漠然としていた自分のこだわりや、店のいい所が一つ一つかんがえることで
つながっていくと告知文になるというのがおもしろかった。
お客様を知るということが、自分の仕事の集客になるということも大きな気づきでした。
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たくさんのワークで実際に自分の言葉で書き出すことにより、
自分の考えやどうしていきたいかがより明確になりました。
その都度、他の人とのシェアタイムで声に出して言うこともすごく良かったです。
ありがとうございました。
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このセミナーは、5月末に福岡でも行う予定です。
詳細が決まりましたら、またお知らせいたしますね。

2013/04/12

春の香り

 水曜日に友達と行った温泉に併設されていた直売所で、ふきのとうを買った。小ぶりのものが、片手に乗るサイズのパックにぎっしり入って150円。直売所のおじさんには「天ぷらにするのか?」と聞かれたけれど、最初から、ふきのとう味噌を作るつもりだった。
 ふきのとう味噌を作るのははじめてだから、ネットでざっとレシピを検索してから作業を始めた。お湯を沸かしておいて、外葉をはずして固い軸を落とすそばから、自らのあくでふきのとうはみるみるうちに黒くなっていく。作業のスピードを早めて、沸騰したお湯の中に落とす。家の中に広がる春の香り。さっとゆでたあとは1時間弱ほど水にさらしてあくを抜き、細かく刻んで油で炒め、味噌とお酒とお砂糖とみりんで味つけし、しばらく練ってできあがり。ほんのすこしだけ、スプーンですくってつまみ食い。思ったよりも、ずっと簡単にできた。
 あまっていた瓶にできあがったふきのとう味噌を詰めて、よく冷ましてから冷蔵庫へ。つやつやの炊きたてごはんにのせて食べるのが楽しみだ。きっと、口の中いっぱいに春の香りが広がるだろう。

2013/04/10

ラジオと野球中継

「梨果さんあんまりラジオを聴いたことがないのね」
 私は、華子の愛用のラジオをちらっとみた。横長の四角形、ひっぱるとのびる銀色のアンテナ。
「ラジオの番組がおわるときってね、親しい人が帰っちゃうときのような気がするの。それが好き。私は小さい頃からいつもラジオを聴いていて、親しい人にまだ帰ってほしくないって思っても、やっぱり時間がくると帰っちゃうの。きちんとしてるの、ラジオって」
(江國香織『落下する夕方』角川文庫、191〜192ページより)
 私は以前から夜に弱いので、ラジオの深夜番組にあまり馴染みがない。ごくたまに、オールナイトニッポンの2部を聴いていたくらい(夜更かしではなく、もちろん早起きで、だ)。
 だらだらと際限なく続くような気がするテレビ番組より、ラジオはよほどさっぱりしている。できるだけ言葉を尽くして説明してくれるし、きちんきちんと終わる感じが好ましい。テレビよりも親密な感じ。そういえば、小さい頃に野球のテレビ中継が延長にならずに終わってしまうと、父と一緒にラジオに移動して実況中継を聴き、見えはしないプレーに一喜一憂していたのを思い出す。

2013/04/04

美しいとは

 「美しい」とは、一体どういうことなのだろう。
 存在自体が美しいものなのか。意思を持つから美しいのか。
 それとも、人が見るから、脳の中で美が生まれるのか。

2013/04/01

自分で引き受ける以外にない

 もう、社会人何年目、と数えるような年ではなくなってしまったけれど、それでも4月1日というだけで背筋がしゃんとする気がする。
 新卒で勤めた出版社は、3月1日から1ヶ月かけて新人研修を前倒しで行っていた。それに間に合わせるために、東京への引っ越しは2月下旬。引っ越してきた次の日に、自分が乗る朝の電車の混み具合を軽い気持ちで駅まで見に行って、今度からあんな電車に乗って通勤するのか、と青ざめて帰ってきたことを覚えている(そして案の定、満員電車に耐性のなかった私は恐れをなしてなかなか乗り込めず、まるでマンガかドラマのように、駅員さんにギューッと押し込められる羽目になったのだった)。研修は完全なOJTで、1週間ごとで各部署を持ちまわり、書店にも見習い書店員として立たせてもらった。研修も終わりに近づいてくると、同期の話題は配属先で持ち切り。大卒の同期は全員が編集志望で、でもだからこそ、私自身は営業になるんだろうなあ、と半ば諦めていた。
 改めて4月1日に行われた入社式での辞令交付で、私は編集部に配属された。そして、私以外の全員が営業配属だった。いまもって、何を配属の判断基準にしたのかはまったくわからない。最初から編集部に配属になったのはとても嬉しかったけれど、同時に私は同期と仕事の話ができなくなることを覚悟し、そしてその予想が外れることはなかった。自分の仕事は孤独であっても自分で引き受ける以外にない、たとえ同期でも誰とも共有できないのだということを本当に実感したのは、あの日がはじめてだったかもしれない。
 5人いた大卒の同期は、もう今は1人しか残っていないはずだ。この年齢ならばそろそろ役職がついているだろう。あのころ描いた未来とはずいぶん遠く離れたところに来てしまったけれど、それでもあの会社にいたからこそ今の私があるんだな、と懐かしく思い出す。