2013/09/12

名刺に残っていたもの

 家中の大掃除をしていた夫が、以前使っていた名刺入れを発掘してくれた。アニエスb.の、トカゲの模様が入った黒い革のもの。それまで使うつもりでいたアルミの名刺入れがなんだか急に恥ずかしくなり、入社したその日の帰りに渋谷で買ったんだった、と思い出す。
 中を見てみれば、私の名刺と、新卒で入った会社の同期や同じ編集部にいた人の名刺、そのあと働いた制作会社で一緒に仕事をした人の名刺などがばらばらの順番で入っていた。まだ旧姓だった自分の名刺をしげしげと眺めて、こんな名前だったんだな、と他人事のように思う。
 ぺーぺーのくせに、周りの先輩や上司には生意気ばかり言って、あの頃の私はひどく扱いにくかっただろう。それでも、いい本をつくりたい、自分にしかつくれない本をつくりたい、と思っていたあのときの情熱が、残っていた名刺に詰まっていたような気がした。
 すこし立ち位置は変わったけれど、自分の名前の印刷をなぞりながら、いいものを書きたい、いい文章にしたい、と誓うように思う。

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