2013/07/31

抜けだしたはずの、でも親しい暗闇

つまり、きみのことは、きみが決めなければならないのだった。きみのほかには、きみなんて人間はどこにもいない。きみは何が好きで、何がきらいか。きみは何をしないで、何をするのか。どんな人間になってゆくのか。そういうきみについてのことが、何もかも決まっているみたいにみえて、ほんとうは何一つ決められてもいなかったのだ。
(長田弘『深呼吸の必要』晶文社、21〜22ページより)
 すこし、弱っていた。疲れているところに気が滅入るような話を聞かされ、私自身が揺らいだ。考えに考えぬいて、やっと確立したはずのなけなしの自信は、あっという間にぶれた。そうするとあとは迷路にはまり込むばかりで、抜けだしたはずの、でも親しい暗闇の中にいるようだった。
 以前だったら、こんなときは「誰かが私にとっていちばんいい道を決めてくれたらいいのに」と思っていた。運命というものがあるのならば、きっとそれに沿って生きることになるのだろうから、それなら今すぐそうなってほしい、と。
 でも、何回もそんな場面を通過してみて、そんなことはありえないのだと知った。ひとつひとつ、私自身が決めていくしかないのだ。何が得意で、何をしているときがいちばん楽しく、笑っていられるのか、そんなことを私以上に知っている人は神様しかいない。そして、神様は見守ることしかしないのだから、歯を食いしばりながら決めるのは私しかいないのだ。
 影響されやすい私は、きっとこれからも何回もここに戻ってくるだろう。でも、そのたびに、またここから始めるしかない。暗闇のなかでもがきながら、あるいは勝手知ったるように歩きながら、道を切り開いていくのだ。

0 件のコメント:

コメントを投稿