2013/05/24

いちばんのなぐさめ

人が死ぬってどういうことだろう。空を見ながらまた同じことをぼんやりと考える。
もう会えなくなる、急にいなくなる、触れなくなる、体がなくなる……どれもしっくりとは来ない。自分はまだ生きているから。
どんなことがこの状態をいちばんなぐさめたのだろう。時間か、鈍さか、新しいできごとか。
よしもとばなな『スウィート・ヒアアフター』(幻冬舎、119ページより)
彼女と話した回数は、決して多くない。仲がいい友達なら、他にもいた。彼女にとっては、私は「何回か話したことがあるクラスメイトのひとり」だったのかもしれない。
それでも、くっきりと思い出す。体育館から教室に戻る途中、白っぽい光が差し込む廊下で制服のスカーフをもてあそびながら、「ヘビーだねえ」「ほんと、ヘビーだよねえ」とぽつりぽつりと交わした会話の断片、すんなりと伸びた細い手足と大きな目。なぜだかはわからないけれど、お互いがお互いの言葉をちゃんと理解しているという確信があって、きっとそれは彼女も同じだったのではないかと今でも思っている。
もう彼女と会うことはできないけれど、彼女に接していた左半身全体で、びりびりと「通じている」と思ったあのときの感覚は忘れない。忘れられるものではない。そして、その感覚が、彼女がいなくなったことを私が受け入れるための、いちばんのなぐさめだったのだ。

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