2014/07/10

 

「手仕事」という言葉に弱い。

 私の父は、自らが資格に助けられてきたということもあって、私には小さいころから「何か資格を取りなさい。そうでなければ、手に職をつけるといい」と言い続けてきた人だ。

 家庭の事情で、浪人してでも医学部に行きたいという夢を諦めた父は、きっと娘のうちの誰かに、それを代わりにかなえてほしかったのだろうと思う。それなのに、私たち姉妹3人は、医学部はおろか、誰ひとりとして理系にさえも進まなかった。

 数学と物理が絶望的にできなかった私には、理系という選択肢ははじめからなく、かといって大学を卒業したら何になるのかもまったく見えていなかった。今でも、役に立つ資格などほとんど持っていないし、手に職があると言える状態でもない。

 だからこそ、なのか、自分の手で何かをつくり出せる人のことを強烈に羨ましく思う。「てづくり市」だの「ハンドクラフトマーケット」だのという文字を見かけると、ふらふらと引き寄せられるように会場に行ってしまう。そしてまたコンプレックスを刺激されてうなだれて帰ってくる、というのがいつものパターンだ。

 母もふたりの妹も、裁縫や編み物が好きで得意だ。どうして私だけそうじゃないんだろう、と、すぐ近くで手仕事をする人たちを横目に、諦めのため息をついている。


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