2015/01/08

 雨は降り続いていて、私は肩と首をすくめてなるべく雨の当たらない場所を歩くしかなかった。それでも、10分弱歩いてホテルに戻ってきたときは、もうすっかり濡れてしまっていた。
 
 雨に濡れるのは嫌いではない。それでも、ひとりで旅先で雨に打たれるのはちょっと心もとない感じがするものなのだな、と水滴を拭っていたら、"Good morning, Ms."と声をかけられた。
 
 「どうしたの?雨に濡れたの?貸せる傘があったのに」と言ってくれた、クロークにいたその男性の肌は綺麗な茶褐色だった。「そうだったの?私が出かけたときは誰もいなかったからわからなかったよ」と言うと、「それは悪かったね」とすまなそうに笑う。「僕はジェームズ。君の名前は?」と聞かれて、はるな、と答えると、日本人の名前は発音が難しいね、と言う。日本に行ったことがあるよ、と言うのでどこに行ったのか聞くと、Tokyo, Osaka, Kyoto, Hokkaido, と楽しそうに思い出している様子だった。
 
 「シアトルにはいつまでいるの?」と聞かれたので今日ニューヨークに移動する、と答えると、ぱっと顔を輝かせて「ニューヨークは僕の出身地なんだ」と言う。とっても素敵な街だから楽しんでね、と言ってくれるその気持ちが嬉しい。
 
 チェックアウトのすこし前に荷物をまとめてフロントに下りたら、ジェームズは別のお客さんとしゃべっていた。手続きを終えてホテルを出るときジェームズの方を見たら、お客さんの対応をしながら笑って頷いてくれた。Thank you, と言って小さく手を振って、まだ雨の降る外へと向かって歩いた。

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