2013/06/27

命を削る

 「著者は命を削って本を書く」と言われるが、校正者も同じように「命を削って校正している」のだとつくづく思う。
 4月末から校正を手がけていた本が2冊、ほぼ同時に発売になった。どんなに大変だった本でも、実際に印刷・製本された状態で手元に届くと、本当にほっとする。まだ残るインクの匂いをいっぱいに吸い込み、パラパラとページをめくる。言葉じりに悩み、別の表現に変えたほうがいいのではないか、自分の日本語が間違っているのではないか、と迷いに迷いながら赤ペンを入れた膨大な時間が、この瞬間に報われる。このときのために仕事をしているのだ、と思わずにはいられない。
 校正は「こういうことを言いたいのだろうか」「この表現でいいのか」「これで読者に伝わるのか」という自問自答が果てしなく続く作業だ。明快な正解がないことも多い。そして、本文に間違いがなくて当たり前。その分、ベクトルが自分に向くことも多く、本当に消耗する。それでも、その本がたくさんの読者の方に読んでいただけたと知ったときは、やはりとても嬉しいものだ。
 200ページの原稿の中で、ほんの小さな句読点の位置を修正する、助詞ひとつを変えることにプライドを感じる、そんな校正者でありたい。そしてそれこそが、「神は細部に宿る」ということの証だと思うのだ。

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