2014/12/02

海の浸透圧

 旅先で現地に住んでいる人と会うと「何がしたい?」と聞かれるけれど、いつも答えに詰まる。これといって観光名所をまわりたいわけではなく、その土地での生活を垣間見たいだけなのだ。ごく普通のスーパーマーケットに行き、ただ散歩をして新鮮な景色を目に焼き付け、なんとなく書店を冷やかし、ときどきは買い物をしすぎて後悔する、というような。
 
 それでもせっかくだから、と、ゴールデンゲートブリッジとアルカトラズ島をまわる1時間のクルーズに乗り込むことにした。相変わらず日差しは強くてサングラスが手放せなかったけれど、デッキに出て海風に吹かれるのは本当に気持ちがよかった。
 
 海を見ていると、なんだか心の鍵が外れたようになる。力いっぱいに扉を閉めて、なおかつその上から全体重をかけて動かないようにしていた不満やストレスが、いとも簡単に溶け出していくのを感じる。そういえば、イギリスにいたときも、ときどき電車に乗って北海を見に行っていたんだった、と思い出した。海の浸透圧、と思う。
 
 真下から見上げたゴールデンゲートブリッジは、対岸から見るよりもずっと迫力があった。どれだけの年月と人とお金とが費やされたのだろうと思うと、心の隅がしんと冷える。建設から80年近く経った今もなお、こうやってなくてはならない存在になっているということに思い至ると、なんだか目が眩むような気がした。

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