2012/12/26

言い切る覚悟

 ーーテレンティウスという古代羅馬の劇作家の作品に出てくる言葉なのだ。セネカがこれを引用してこう言っている。「我々は、自然の命ずる声に従って、助けの必要なものに手を差し出そうではないか。この一句を常に心に刻み、声に出そうではないか。『私は人間である。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない』と」。
 ディミィトリスは瞬きもせず私の目を真っ直ぐに捉え、力強く言い切った。弱くなった午後の日の光が部屋に満ち、ムハンマドのつくるスープの匂いが調理場から流れてきた。
 帰国してからも、私は永くこの言葉を忘れない。
(梨木香歩『村田エフェンディ滞土録』角川文庫、84ページより)
 私自身に、「私に無縁なことは一つもない」と言える覚悟は、まだない。

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