2014/02/19

魂を売り渡す

 私にとっては、「ケーキを買う」ことよりも「チョコレートを買う」ことのほうが特別で、さらにそれが「銀座でチョコレートを買う」ことであれば、そりゃあうきうきしないわけがないのだった。
 ぐっと力を入れて重いドアを押し、朱色がかった赤とチョコレートブラウンに彩られた店内で、ショーケースに並べられたきれいなチョコレートに、うわあ、と声を上げる。次々と目移りして、オランジェットも大好きだし、アソートはパッケージもかわいいし、板チョコもおいしそうだし、でも自分でも選びたいし…とさんざん逡巡して、結局ショーケースから4種類のチョコレートを選んだ。
 ガナッシュにプラリネを2つ、それにシャンパンのトリュフ。チョコレートは名前さえもうっとりする。チョコレートが詰められた小さい赤い箱をさらに赤い袋に入れてもらって、銀座の街を機嫌よく歩いた。
 チョコレートは幸せ以外の何者でもないのに、それでいて蠱惑的で、食べるときはいつもどこか後ろめたいような気がするのは、きっとチョコレートという悪魔に少しだけ魂を売り渡すからだ、と思っている。

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