2014/02/24

旅先での旅

 旅には必ず文庫本を持っていくけれど(重量の制限がなければ、そして私がもっと力持ちであればハードカバーを持っていくところなのだけれど)、旅のときにバッグに入れるのはエッセイだ。小説は持っていかない。
 小説はそれそのものが旅だから、旅先で旅をする必要はない、ずっとそう思ってきたのに、なぜか今回手荷物にしのばせたのは、池澤夏樹の『光の指で触れよ』という小説だった。ここ3年ほど、何回読み返したかわからない。
 私にとっての池澤夏樹の文章は、なんというか、新しい精神世界に触れるようなものだ。新しい哲学や新しい宗教のような。今まで気づきもしなかった新しい道を、ほら見てごらん、と目の前に示されるような感じ。そしてそれを見てしまったが最後、知らなかったときにはもう戻れないのだ。新しい世界と自分とをつないでくれる作家。
 飛行機の中で、ホテルの部屋で、折に触れて本を開いた。どこかに向かう旅の途中にアムステルダムやスコットランド、そして自分の心の中に旅をするのは、悪くない気分だった。

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