2015/08/15

【工藤春奈のものがたり】10 やっぱり、その人だけのストーリーを知りたい

入社して1年ほどは月刊誌と単行本のどちらも担当していましたが、
2年目になって後輩が配属されたこともあり、
雑誌の方は最終工程だけ手伝うことにして、
私は徐々に単行本専属にシフトすることになりました。

となると、企画を出さねばなりません。

それまでは、「年度版」「改訂版」と言われる
法改正などを修正したものをメインで担当していたので、
新規の企画を考えるのは、ほぼはじめて。

相変わらず会計の知識はないに等しく、
かろうじて勘定科目がわかるようになった程度なので、
何が求められているのかさっぱりわからず、
会計の書籍は作りようがありません。

どうしようかな、と考えていたときに、
ある方から企画の売り込みがありました。

それまでに刊行していた資格シリーズでも
なぜかその資格の書籍は発行されておらず、
企画内容を読んだ私は、編集長に
「これ、出させてください」と言っていました。

専業主婦だった方が一念発起して
数年の年月をかけて国家資格を取得し、
念願の事務所を開くまでのストーリーが
そこには書いてありました。

今でも合格率が10%に満たないその資格に
ほぼ独学で合格したその人のものがたりに、
とても惹かれたのです。

同封されていた連絡先に電話をしたときの
その方の
「え、本当に本を出せるんですか?」
と驚いていた声も、
「出したいんです!ぜひ原稿を書いてください」
と熱っぽく話した私が見ていた風景も、
いまだに忘れられません。

数ヶ月後、その企画は無事に本となって書店に並び、
そこそこの売上を記録しました。

遠方にお住まいだったその方と
実際にお会いできたのは1回だけです。
「担当してくれたのが藤田さん(旧姓)で
本当によかったです。
これからもよろしくお願いしますね」
という言葉は、
新しい本を出す喜びを味わい、
こういう、その人だけが語れる本を
つくっていきたいと思うのには十分でした。

11に続く。

0 件のコメント:

コメントを投稿