2015/08/07

【工藤春奈のものがたり】4 奥にあるものがたりに触れたとき

本の中のものがたりは依然として好きでしたが、
人にもものがたりがあるのだと知ったのは
祖母の影響です。

祖母からはたくさんの思い出話を聞きました。
その中でも強烈だったのが、
満州から引き揚げてくる道のりのこと。

当時妊娠中だった祖母は、
身重の体で必死に祖父と日本を目指し、
山形に帰る途中の昭和20年9月、
一面焼け野原の広島で
母を産んだということを
繰り返し繰り返し話してくれました。

親戚はおろか、知り合いも誰もいない土地、
しかも原爆が落とされてからまだ1ヶ月も経たない広島で
はじめての出産を経験することになり、
祖父は一生懸命産婆さんを探したそうです。
あのときのバラックの様子は
まだ覚えている、と祖母は語っていました。

いつも穏やかで、私を怒ることも一切なく、
にこにこと笑っていた祖母の奥に
そんな壮絶な経験があったとはにわかに信じられませんでした。

でも、「人には、あえて見せようとはしなくても
その人だけのものがたりが必ずある」ということを、
言葉にはできないものの、感じ取っていたのだと思います。

それに気づいてから、
私はそれまでよりいっそう
「なんでなんでちゃん」になるようになりました。

5へ続く。

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